秘すれば花なり、秘せずば花なるべからず、となり
お世話になっている日本舞踊のとある流派の御家元から、
作品づくりに関わる参考書としておすすめいただいた本をご紹介します。
『風姿花伝』(ふうしかでん)
これは中学の歴史の授業で習いました、世阿弥が記した能の理論書です。
世阿弥とは室町時代の能の役者で、「観阿弥・世阿弥」とセットで覚えましたね。
ダンスでも演劇でも何でも「表現」に携わる方、特に作品をクリエイトする立場の方は必読の1冊ですほんとに。
表紙が怖い、とか思わないでね笑
まず先に作品におけるよく陥りやすい「失敗例」を紹介します。
よくある失敗例
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Aくんは自分の所属しているダンスチームの中のナンバーを1曲振り付けから構成まで1から10まで手がけることになりました。
Aくん
「よし!めっちゃめちゃかっこいいナンバー作るぞ!」
「アレもやってコレもやって最後に大技決めて!」
「あそこでこうゆうフォーメーションでその次はこういうフォーメーションで動き回ろう!」
そんな意気込みでAくんは自分の持てる最大限かっこいい振り付けをふんだんに盛り込みかつ、大技をいくつも取り入れ、フォーメーションも何パターンもあるナンバーを作りました。
そしてイベントでいざ披露してみると、、、
要所要所で観客は沸くもののイマイチ評価が良くありません。
コンテストでも入賞できません。
でもAくんは自分がかっこいいと思うものを詰め込んだので何がいけなかったのかわかりません。
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こういうパターン。
何がいけないのでしょうか。
まぁタイトルから大体察することができますね笑
何がいけないのか
「かっこいいと思えることをふんだんに盛り込んだのだから作品としてはいい出来である。お客さんも評価してくれる。」
そんな都合の良いことは芸事では残念ながら存在しません。
Aくんの敗因1つ目はとにかく詰め込みすぎたことです。
やりたいこと、かっこいいことをとにかくナンバーに盛り込んだことによりぱっと見派手でイケてるように見えるかもしれませんが観ている側の人間からしたら、
「で?」
で片付いてしまうのです。
その作品の中でやりたいことなんて1つか2つか十分です。
歌だととてもわかりやすいのですが、
Aくんの作品は常にサビを歌い続けているようなものです。
どんな素晴らしい歌でも1曲ずっとサビだけ聴かされたらどうですか?
1曲もたないですよ。くどくて。
素晴らしい歌、もしくは曲というのは、イントロがあってメロがあってサビにつながるブリッジがあってサビ、そしてちょっとの間奏を挟んで2サビ、そして最後に半音上がってみたりしてアウトロ、などと構成がありますよね。
そのような全体の構成を踏まえてバランスよく作品は作らねばなりません。
2つ目は何が伝えたかったのかです。
作品にはメッセージが付き物です。というかメッセージが何もない作品は最早作品と呼べるのだろうか、というところです。
それはただの自己満足としか言えません。
(逆にメッセージがなく、お客さん各々感じたことそれこそが各々に対するメッセージだ、という作品も中にはありますが。)
先ほどの曲の話とも共通しますが、
曲で一番伝えたいメッセージというのは例えば「最後に半音上がるところ」です。
そこが一番盛り上がりますからね。
そのようなメッセージが何もなく、ただ「かっこいいもの」を集めただけでは、
「で?」
という感想になります。これをこの『風姿花伝』では、
秘する花を知る事。秘すれば花なり。秘せずは花なるべからずとなり。
この分け目を知る事、肝要の花なり。
と表現しています。
和訳すると、
秘して隠すことによって花となるという道理を知ること。花の存在を人に隠せばそれが花になり、秘密にしないことには花になりえないということである。この秘する秘さぬかで花の有無が分かれるという道理を知ることが、花にとって大事なことなのである。
となります。
ここでいう「花」とは一番の見せ所ということです。
Aくんは花を最初から最後まで花を詰め込みすぎてしまったのです。
だからお客さんは、
「どの花が一番伝えたかったことなの?」
と疑問がのこってしまい、
「で?」
となるのです。
花も様々な花の中にあると埋もれてしまいますよね。花は草の中に一輪咲いている姿に人は感動を覚えるのです。
ではAくんはどうすればよかった??
まずナンバーを新たに作るにあたって「何を伝えたい(魅せたい)のか」を決める必要がありました。
「かっこよさ」としましょうか。
次に曲のどこでそのかっこよさを最大限表現するのか、構成を考えます。
まぁ曲の一番の大サビとしましょう。
では実際に作ります。
一番の大サビにAくんが最もかっこいいと感じるムーブをぶっこみます。曲の構成にもよりますがまぁサビの部分ですね。
そしてイントロ、メロは抑えます。我慢ですAくん。
「最もかっこいいと感じるムーブ」はAくんにとっての花なので花を活かすため、花が最も咲き誇るタイミング(サビ)まで花は隠します。
曲の途中での多少の盛り上がりはいいと思いますが決して花を超えてはいけません。
パーセンテージで言うなれば花を「100%」とするならば、そこに至る部分は決して100にしてはいけないのです。
このようにしてバランス、構成を考えながら作品づくりをすれば、お客さんにとっても非常に明瞭にAくんの表現したいかっこよさが伝わります。
最後に
冒頭に作品づくりに関わる参考書と紹介しましたが、コミュニケーションにおいても同じことが言えます。
「ねぇねぇ!すっごい面白い話があるんだけど!」
で話し始めると聞き手はいやが応にも構えてしまいますので面白い話が如何に面白くても十分には伝わりません。
これも「秘すれば花なり」です。
また紹介しすぎるとネタバレになってしまいますが、
この『風姿花伝』にはかなり具体的に表現者としてのあるべき姿や所作、考え方などが盛り込まれており、表現に携わる方には必読書です。
原文をそのまま読もうとするのは骨が折れますので、僕は冒頭の『風姿花伝・三道』を読みました。
原文・現代語訳・解説と非常にわかりやすく盛り込まれているので。
ちょうど今僕もAくんと同じような作品づくりの立場にあるので作る前に読んでおいて良かったです。